芭蕉布

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沖縄には、自然に育まれた「幻の布」と呼ばれる織物があります。とんぼの羽のように透けるほど薄く軽いと評される「芭蕉布 (ばしょうふ) 」。張りがあり、さらりとした肌触りが特徴です。風を通す心地よい生地は、高温多湿の沖縄で暮らす人々にとってなくてはならないものでした。

芭蕉布は、沖縄本島の北部に位置する大宜味 (おおぎみ) 村の喜如嘉 (きじょか) を中心に作られる織物。バナナ (実芭蕉) の仲間である糸芭蕉 (イトバショウ) の繊維を用いる。糸芭蕉の栽培から生地の仕上げまで全てを地元で手作業で行う稀有な工芸品となっている。
琉球王国の時代から、王族がその着物を身につけた他、中国 (清王朝) や日本 (徳川家) への最上の貢ぎ物であった。また、庶民の着物としてもなくてはならないものだった。涼をはらんださわやかな着心地は、高温多湿な気候での暮らしを快適にし、普段着から晴れ着まで場所を選ばず着用されてきた。第二次世界大戦を経て一時衰退したものの復興し、芭蕉布は県の無形文化財に、また「喜如嘉の芭蕉布」の名で国の重要無形文化財、経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されている。

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糸芭蕉

芭蕉布の原料となる糸芭蕉は、3年ほどかけて人の背丈を超える大きさになったところでやっと採取可能な状態になりますが、1本の糸芭蕉からとれる繊維の量は20グラム程度と、ごくわずかです。1反の布を織るには200本の糸芭蕉が必要という、途方もないスケールのものです。十分な糸を確保するには、手間を惜しまぬ畑の管理が必要となるため、広大な畑で糸芭蕉をしっかりと育てることが重要だとされています。

「民藝運動の父」と呼ばれる柳宗悦も、芭蕉布に魅せられたひとりであった。普段着として用いられる日常的な存在が、そのまま美しいものであることの素晴らしさを讃えました。同氏は、糸芭蕉がしげる南国ならではの畑の風景を愛でながら、糸ができるまでの工程を次のように語っています。

芭蕉が繁るのは南国の風情である。見渡すと蘇鉄 (そてつ) や棕櫚 (しゅろ) やパパイヤ等の間に交って、その幅広い柔らかい葉が靡 (なび) いている。山にも庭にもどこにも茂る。互に似ているが、糸芭蕉は実をとる芭蕉とは違う。手近にあるありふれた此の糸芭蕉が有難い素材である。滴るほどの水々しいその茎の中に、幾条となく美しい繊維が並んでいる。内側のものほど細く美しい。重なる皮を漸次 (ぜんじ) に剥ぎとって、たぎる湯釜に入れる。それには木灰がまぜてある。柔らかくなったあま皮を取り去れば繊維だけが残る。これで用意はいい。これを乾かしたものを爪先で器用に裂いては糸に繋ぐ。これを幾籠かにためて準備する、中で糸つなぎは時がかかる単調な仕事である。五、六人の女が或る家に寄り合って、話しながら仕事にかかる。その日の糸は皆其の家への贈物である。次の日は次の家に出かける。出来た糸をまた其の家に置いてゆく。こんな為来はものうげな此の仕事を和らげていく。

『柳宗悦コレクション2 もの』より

芭蕉は乾燥に弱く、すぐに切れてしまう特性がある。そのため、製作に最適な季節は梅雨時。柄や織り手によっても異なるが、約2ヵ月で1反が織り上がる。できあがるまでの工程は23あるが、その多くは「糸づくり」に関わるもので、「織り」の工程は全体の1パーセントほど。いかに糸づくりに手がかけられているかが伺える。

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