アメリカ・シカゴのダウンタウンの南側のシカゴ大学の近くには、ミースやル・コルビュジエと並ぶ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトによる典型的なプレイリースタイルの住宅「ロビーハウス」があります。また、シカゴの西側のオーク・パークにはライトの自邸を含め初期に手掛けた住宅建築が25棟程あります。
フランク・ロイド・ライト（Frank Lloyd Wright、1867年6月8日 – 1959年4月9日）は、ウィスコンシン州に牧師の父ウィリアム・ライトと母アンナの間の第1子として生まれました。ウィスコンシン大学マディソン校土木科を中途退学した後、シカゴへ移り住んで、叔父ジェンキンの紹介により、建築家のジョセフ・ライマン・シルスビーの事務所で働き始めたが、1年ほどでシルスビー事務所を辞し、ダンクマール・アドラーとルイス・サリヴァンが共同して設立したアドラー＝サリヴァン事務所へと移ります。
アドラー＝サリヴァン事務所ではその才能を見込まれ、事務所における1888年以降のほとんどの住宅の設計を任せられました。ライト自身もサリヴァンをLieber Meister (愛する師匠）と呼んで尊敬し、生涯にわたりその影響を肯定し続けました。
ところが、アドラー＝サリヴァン事務所に勤めてもうすぐ7年になろうとした1893年、事務所での設計業務とは別にアルバイトの住宅設計を行っていたことがサリヴァンの知るところとなり、その件を咎められたライトはアドラー＝サリヴァン事務所を辞し、独立して事務所を構えます。ライトの経済的困窮は、子だくさんに加え、洋服や車など、贅沢品を好むそのライフスタイルにありました。1894年のウィンズロー邸は独立後最初の作品です。
ライトは、独立した1893年から1910年までの17年間に計画案も含め200件近い建築の設計を行い、プレイリースタイル（草原様式 Prairie Style）の作品で知られるようになりました。1906年のロビー邸はその代表的作品です。プレイリースタイルの特徴としては、当時シカゴ周辺の住宅にあった屋根裏、地下室などを廃することで建物の高さを抑えたこと、水平線を強調した佇まい、部屋同士を完全に区切ることなく、一つの空間として緩やかにつないだことなどがあげられます。
ライトが自宅兼事務所を構えたオークパークには、ライトの初期作品と、プレーリースタイルの建築が数多くあります。かつて、オークパークでは、毎年５月に「ライト祭」風のイヴェントがありました。オークパークに建つ、ライトの建物が年毎に順番に、オープンハウスをするというイベントでした。イベント期間にはオークパークに沢山の観光客が訪れ、イヴェントの開催中は、オーナー一家は地下室に籠り、沢山のボランティアがツアーガイドに参加していました。
ツアーのボランティアは、地元の医者・教師・学生などで構成され、各々が住宅の公開されている部屋のガイドを担当します。このツアーは、たいへんなもので、見学したい住宅に並ぶと、ボランティアが配布されているリスト（スタンプラリー風の、その年に公開されているライト設計の住宅のリスト）にチェックを入れて、並んでいる順番に、10人くらいのグループになって、順番に案内されます。
どの家も勝手に見ることはできません。担当のボランティアの解説が済むまで次の部屋に移動することも許されません。沢山のライトマニアが、ライトがいかに素晴らしいかを語りつくすのを待って、次の部屋への移動が許されます。
エドウィン・Ｈ・チェニー邸は、ライトのHOME&STUDIOから、シカゴAVE.を数ブロック東へ行き、路地を一本入ったところにあります。構造は煉瓦造のように見えますが、2年後のロビー邸に見られるような、煉瓦の縦目地の着色がここではすでに使われていて、縦ラインを消して、水平ラインを強調する手法が既に試みられています。
ところでライトは、オークパークを拠点に活動を続けていたにもかかわらず、こともあろうに、この住宅の施主の妻である、ママー・B・チェニーと駆け落ちし、このスキャンダルが原因となって、設計依頼が激減、長く不毛の時代を迎えることとなります。
